
こんにちは!保住です。
前回の記事では取り扱っている技術と活動終盤の内容を紹介しました。
本連載最後として、先日実施された成果報告会の様子をまとめます。
成果発表会の概要
日時:2025/02/14(金)15:30〜20:00頃
場所:札幌市民交流プラザ3階 クリエイティブスタジオ
札幌市民交流プラザの外観と内観
> 画像の引用元: https://www.sapporo.travel/sightseeing.photolibrary/
会場の様子
成果発表会のプログラム
- 札幌市長からビデオメッセージ
- 来賓挨拶
- トークセッション
- 札幌AI道場第3期 成果発表
- ユースコース(学生コース)
- エンジニアコース(社会人コース)
- グローバルコース(高度外国人材コース)
- 札幌AIラボが実施する新制度のご紹介
- 交流会
トークセッション
登壇者(敬称略)
- 札幌AIラボ長 川村 秀憲
- 札幌AIラボ事務局長・札幌AI道場総師範 中村 拓哉
主な内容
地域で学ぶ意義についてのクロストークでした。GAFAMをはじめとするグローバル企業がAIやサービスを開発しているものの、それらが地域の課題解決に直接使えるものではないという指摘や地域に特化した課題を拾い上げるプレイヤーや仕組みが必要、というお話がありました。
弊社でも、「AIのラスト1mを埋める為に我々が何をすべきか」を常に考えています。「AIのラスト1m」とは、グローバルで開発されるAIやサービスを地域の企業の課題に結びつけ解決するための歯がゆさを表現した言葉で、今回のトークセッションの内容とも非常に近い考え方だと感じました。
札幌AI道場第3期 成果発表
ユースコース(学生コース)
タイトル: 姿勢推定AIを用いて企業キャラクターの認知度向上を図るビジネスモデルの提案
トップバッターは学生の発表でした。
「企業ブランドを成長させるために企業キャラクターの認知度を上げることが有効ではないか?」という仮説に基づき、アンケート調査や既存データから企業キャラクターの効果を検証。そのうえで姿勢推定AIを活用したエンタメ要素のあるシステムを開発し、イベントで実際にデモを行ったとのことです。フィードバックをもとに「手を広げるとキャラクターが拡大する」などの改善を加えるなど、PDCAをしっかり回していた点が非常に素晴らしいと感じました。
開発したサービスの内容は、カメラに写った人物の肩や手の上にキャラクターを描画し姿勢推定AIで人物の肩や手の動いた場所にキャラクターも追従させるようなシステムでした。
エンジニアコース(社会人コース)
Aチーム:「ロードヒーティングのエネルギーロス削減」(課題提供企業:株式会社伊藤組)
課題背景
- ロードヒーティングの制御を人手で行っており、24時間管理が必要
- スイッチの切り忘れによる無駄なエネルギー消費が発生
そこで、「AIでロードヒーティングを適切に制御する」ことを目指し、さまざまな要因(路面の状態、天気、気温、湿度、風速、降雪量など)を考慮して、いつON/OFFにするかをAIに判断させるプロジェクトに取り組まれました。
素晴らしいと感じた点
- 気象データを扱うAIモデルと、路面の画像を扱うAIモデルという異なるアプローチを組み合わせ、精度向上を図っていたこと。
- 単なるAIモデルの構築だけでなく、それを組み込んだシステム全体を実装していたこと。
チームB:「ゴミ収集の精度向上」(課題提供企業:一般財団法人 札幌市環境事業公社)
私が発表したチームです。
課題背景
- ゴミ袋の体積計測で新人作業員の教育に関すること、計測に時間が掛かるゴミ袋の計測もスピーディーに行いたい
そこで、「AIでゴミ袋の体積を推定する」ことを目指し、ゴミ袋の大きさや形状など様々な要因を考慮して、正確にかつスピーディーに体積を推定させるプロジェクトに取り組みました。
使用データ
- ゴミ袋の画像
検証方法
- LiDARで推定した体積を基準値として、AIでの推定体積と乖離を調査
AIでの体積推定は、画像から深度を推定するモデルと画像からゴミ袋の位置を検出する物体検出モデルを使い、体積を推定しました。
また、体積推定では比較的使われるLiDARとAIどちらが優れているか精度と速度の面で比較しました。精度(推定体積値)はLiDAR、速度(計測/撮影〜予測までの所要時間)はAIが優れていたという結果になりました。AIがより精度を上げるためにはゴミ袋の形状判定をより正確にできるようにすること、複数のアングルから画像を撮影しそれぞれの画像に対して体積を推定してアンサンブルする手法の導入など今後の展望を結論としました。
チームC:「トレーニング評価の標準化」(課題提供企業:合同会社ソフトテニスアカデミー)
パーソナルジムで撮影したお客さんの姿勢画像を元に、姿勢推定AIを構築。正面・側面の姿勢評価を行っていました。
素晴らしいと感じた点
- 使用する学習済モデルを複数比較し、評価指標を定義したうえで最適なモデルを選定する流れが整然としていて美しかったこと
- 最終的に業務で使う運用まで見据えて、Webアプリケーションとして実装し、課題提供企業から「非常に有用」と評価されたこと
札幌AI道場はPoC(概念実証)的プロジェクトであるため、必ずしもアプリケーションの開発が必要ではありません。しかし、我々のチームはデモアプリを作ってはいたのですが、課題提供企業様に使用していただくまではしませんでした。懇親会で「実際に動くものをもっと早い段階で触りたかった」とコメントをいただき、実際に使えるデモを早めに共有してフィードバックを得ることは改めて重要だと感じました。
チームD:「浄水場管理の効率化」 (課題提供企業:株式会社フソウ)
課題背景
- 未経験者には取水量(浄水場における水源からの引き込み量)のコントロールが難しい
取水量の適切なコントロールには、配水量(各家庭や事業所に配られる水量)の予測が不可欠。そこで、まず配水量を予測する回帰モデルを構築し、それを基に取水量を予測する2段階のアプローチをとっていました。
使用データ
- 日時ごとの取水量・配水量
- 天候情報(気温、降雨量など)
- 大口需要者の受水量
素晴らしいと感じた点
- データの可視化を丁寧に行い、SHAP値を用いて各説明変数の寄与度を可視化していたこと
- モデル構築の過程で、課題提供企業がRPAを導入しデータ整備に取り組むなど、企業の意識変容も引き出していたこと
比較検証したモデル
- LightGBM
- XGBoost
- RandomForest
- Catboost
チームE:「就活生を支援する文章作成サポート」(課題提供企業:株式会社北海道アルバイト情報社)
課題背景
- 就活生へのコンサル業務(自己PR採点、志望動機の添削、面接準備のサポートなど)に作業負荷が高い
そこで、LLM(大規模言語モデル)を活用し、自己PR自動添削システムを構築。「日本語の誤り」「PR内容の充実度」「アピールポイントが相手に伝わっているか」の3つを主に評価し、文章を修正/提案してくれます。使用モデルはGPT-4o miniとのこと。
検証方法
- 同一のPR文を、人間(チームメンバー・企業担当者)とLLMで評価し、採点のばらつきを比較
- 修正提案の質も企業担当者にチェックしてもらい、1つを除いて高い満足度を得られた
今後は企業担当者の採点理由をLLMへフィードバックし、モデルをさらにチューニングしていく方針が示されました。
グローバルコース(高度外国人材コース)
エンジニアコースのチームCと同じ課題に別のアプローチで取り組み、「いい姿勢と悪い姿勢」の定義づけを重心のズレとして捉え、撮影データから3Dモデルを生成して重心線を算出する取り組みを行っていました。
スライドは日本語で作成し、プレゼンテーションは英語というチャレンジングな内容でした。
札幌AIラボが実施する新制度のご紹介
一般財団法人 さっぽろ産業振興財団及び札幌AIラボから、産学官連携によって国内外からAI研究・開発案件を受け入れ、市内IT企業におけるAI開発案件の創出や販路拡大など等の支援を行うために具体的な経済価値を生み出すことを目的とする制度の紹介がありました。
詳細はこちら
交流会
成果発表後、参加者のほとんどが交流会にも参加し、乾杯と共に、パーティポップを鳴らして盛大に祝杯をあげました。
まとめ
昨年7月に選考が始まり、この日を持って第3期のAI道場が終わりました。
(第3期の選考〜参加開始のスケジュールは、07/10 応募締切、07/29 二次選考、書類選考の案内、08/10 選考結果の連絡でした)
私がエンジニアコースの門下生に応募した理由は、「実際の企業様の課題とデータを使ってPBL形式でPoCを進める」という非常に貴重な経験ができるからです。実際に振り返ってみると期待通り満足度の高い体験が得られました。
技術面では、YOLO Xというモデルでゴミ袋の物体検出をするために検証用のゴミ袋画像を用意し、アノテーションをしてカスタムデータでの学習/評価/推論を一通り行うプロセスを経験できました。
チームマネジメント面でも、リーダーとしてチームビルディングから最後の成果発表までやり遂げることもできました。もちろん、メンターや他のメンバーのサポートがあってのことですが、大変得難い学びがあったと思います。
こんな人におすすめ
札幌AI道場は今期で第3期。会を増す毎に規模が拡大し、レベルも高くなってきているということでした。今後益々盛り上がっていく取り組みだと思います。
来期も開催されるアナウンスはまだありませんでしたが、もし開催される場合「実際の企業の課題をAIを使って解決したい」「AIを使ったPoCをPBL形式で学びたい」という方にとてもおすすめです。
謝辞
最後になりますが、課題提供企業の皆様には、要件のヒアリング、データのご用意、中間報告会や成果発表へのご参加とご講評など、多大なご協力をいただきましたことを心よりお礼申し上げます。
また、札幌AI道場のメンターや事務局、札幌AIラボやさっぽろ産業振興財団など、多くの関係者の皆様のサポートをいただき完走することができたことにも深く感謝します。
以上です。