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肴を荒らさぬ町工場 – 下町ディープラーニング #9

下町ディープラーニング

 みなさんこんにちは。dottの清水です。

 前回の世界国際女性デー特別編を経て、今回からは新しい話題について話していこうと思います。

 「認知症ちえのわnet」というウェブサイトに2018年頃から携わっており、AIによる文章分類の研究開発を行なっているので、今日はその話をしようと思います。

 このサイトは日本医療研究開発機構(AMED)の認知症研究開発事業として、高知大学医学部神経精神科学講座の数井裕光先生を中心に運営されており、僕たちはシステムの運用を引き継ぐ形でプロジェクトに参加しました。

 運用をしていくうちに、さまざまなご相談を頂き、今では「AIによる認知症のご本人におきた出来事の分類」の研究開発を行っています。

「おきたこと」と「対応方法」

 今回の話を進めるにあたって、少しサイトの構造と用語について簡単に説明をしたいと思います。

 「認知症ちえのわnet」は、「認知症のご本人」を介護する方やご家族から「ケア体験」を投稿してもらい、ケアの方法の「奏効確率(成功した確率)」を集計して公開しています。今後認知症の方が増えていくと予測されている中で、集計結果からどんなことにどんな対応をすれば良いのかを知ることができる、社会的に意義のある取り組みですよね。

ケア体験というのは、

  1. (認知症の方に)どのようなことが起きて
  2. (介助者が)どのような対応を行い
  3. うまくいったかどうか

という情報がメインとなっているもので、1を「おきたこと」2を「対応方法」と呼んでいます。

おきたことをグループ化する

 現在は集計結果を作成するために、専門医の方々が一つ一つのケア体験を確認し、「おきたこと」と「対応方法」をグループ化しています。それぞれを「おきたことグループ」「対応方法グループ」と呼びます。

 例えばおきたことグループには以下のようなものがあります。

  • 薬を飲み忘れる
  • 同じことを何度も聞いたり言ったりする
  • 夜中に起きて、不適切な活動を始める

 このようなグループに、利用者の方から投稿されるケア体験を当てはめていくという作業が、奏効確率の集計を行う上で欠かせません。

ルールは辛いよ

 さて、そろそろAI的な話に戻ろうかと思います。

 ケア体験は約4,000件(2022年3月29日時点)が公開されており、今も日々投稿されています。しかし投稿数が増加する中で、日々のグループ化作業の負担も増えており、またグループ化をすることができる専門医の人数や時間も限られていることから、この作業の負担を減らしていくことが急務となっています。

 これまでにも投稿内容を形態素解析し、出現する単語から自動でグループ化を行うという仕組みがシステム上にありましたが、第2回でも話した通りルールベースの文章分類は非常に難しく、さらにニュースとは異なり一般の投稿者の方に書いていただく文章には用語・表記揺れの問題などもありました。

 そこで僕たちは、ディープラーニングによるAIモデルを用い、専門家によって分類された過去のデータを学習し、グループ化を自動化しようと考えました。

下町の心意気

 ここまで下町ディープラーニングを読んでいただいている方はお気づきかと思いますが、投稿が増えてきたとはいえ、4,000件というデータ(実際にグループ化されているのは約2,500件)の量はディープラーニングによる学習には少し心許ない量です。

 そして「おきたことグループ」は約300件もあるので、ひとつのグループに属するケア体験の数は…と考えると、完全に自動化するのは現時点では少し難しいように思えます。100倍とは言わないまでも、10倍は欲しいところです。

 なので完全自動化を目指すよりも、まずは専門家の作業負担を軽減することを目指すことにしました。

 もちろん「将来的に投稿数が増えた場合に完全自動化できるような仕組み」という目標はそのままで、現時点でできうる最善の方法を考える必要があります。

 十分なデータという肴がなくても、戦略次第で解決するのが下町の心意気です。

 それはまた、次回の記事で